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No.0006 

写真を買ったことがありますか?
Dec.6,2001


「あなたは写真を買ったことがありますか?」
 こう聞くとポストカードや写真集を購入したことはある、という方が多い。写真集やポストカードも確かに写真を買っているのであり、それがどうのということではない。ではもう一度、
「あなたはオリジナルプリントを購入したことがありますか?」
 この問いにYesと答える人が非常に少ない。

 写真展会場で作者の私に向かって「1枚欲しいからちょうだい」といってくる見ず知らずのお客さん、友人がいます。ここでいう“ちょうだい”は無料でということ。実に失礼な話だ。自分の全てを打ち込んでいるものを“タダで”というのだ。
 ここで、そしてこの後も含め私はただお金が欲しくてこういうコラムを書いているのではないことを断っておきたい。
 ちょうだいと言われると写真家によっては誉めてもらったと喜んでしまう人もいるが、これは「あなたの写真は無料の価値です」と言っているのも同然なんですよ。もし気に入った写真があって少しでも欲しいと思ったら、写真展会場などではウソでもいいから「おいくら位で譲っていただけるものなんですか?」と聞きましょう。作者によっては、また作者との関係によっては無料で譲ってくれる場合もあるでしょう。もちろんお金を払う価値がないと思えばそれでいいし、もしそうなら譲って欲しいなどと声はかけないでしょうから。
 私はなにも作者である写真家が正しくて、閲覧者の意識レベルが低いと言っているのではない。全体の意識レベルが低いと感じているのだ。もちろん例外の方もたくさん居られるが、総じてそういう傾向にあるようだ。


・プリントの価値

 私としては前々から思っていたことだが、最近はこのプリント販売について人と話す機会が多い。どういうことかというと、日本では写真の芸術的価値があまりに低く、また作者も含めて写真文化のレベルが極めて低いと感じている。それがプリントの販売、価値に大きく影響している。
  世界的に見ても絵画などと比べると写真の価値は低い。金額で高い安いを言いたくはないが、金額での評価は分かりやすい比較法でもあるのだ。ちなみに絵画ならゴッホなどでは数十億円の値段が付くが、写真は世界的に1億を超えるものは無い。それにもまして、日本ではさらに価値が低く見られているのだ。このカメラ輸出大国といわれる国でた。

 写真を買うというと「写真は絵画と違って同じものが何枚もプリントできるから」とか「写真は完全な創作芸術ではなく、そこにあるものを撮っているだけ」という言葉が返ってくる。写真登場の目的はそうであったかも知れないし、もっと別のものであったかも知れないが、現在においては実にナンセンスだ。私の親でさえ「アンタ、何枚でもプリントできるんだから1枚くらい○○さんにあげなさい」ってな具合。もちろんそれを聞く度に正しているが・・・。
  同じネガからプリントしていつも同じ絵が得られるわけではない。もちろん1枚のネガからいつも安定した画像を得るということは一つのテクニックではあるが、限界もある。故アンセル・アダムスはネガは楽譜であり、プリントは演奏であると語った。演奏者が違えば、また同じ演奏者でも気分が変われば得られる奏でる音楽は変わってくる。写真もまたしかりと。現にアンセル・アダムスは同じネガから時期をずらして違うプリントを発表したこともある。
 デジタル写真とて機材はデジタル機材であっても、プリントされたものはアナログであり、同様なのである。
  こういったことが多くの方に伝わっていないのだ。繰り返すがこの認識の低さは日本の写真家も見る側も同じなのである。


  このような傾向はメーカーの人間にも当てはまる。カメラメーカー系のギャラリーなどでは販売を禁止しているところもあるくらい。近年になって徐々に認識が変わって販売を許可しているところも増えているのが救いだ。
 これを読んだ方はぜひ作品写真の価値を考えてみて欲しい。金額の高い低いではなく、評価を与えるのです。○○万円と言いたいところだけど、私はこれしか出せません、でもいいのです。

 ちなみに、私はビンボーはしてても気に入った写真はちゃんと買うことにしている。それが親しい写真家の方のものでも、必ず「ちょうだい」ではなく「これ売ってください。いくらならいい?」と聞く。知人の場合は安くしていただける事が多いが、そうでない場合は財布と相談して諦めることもある。


・作者側の問題

 他にも問題がある。それは作者である写真家が自分のプリントを売らないのだ。「日本で写真を売って食っている人はいない」と言われているが(確かにほとんどいないが)、その言葉に負けてかどうかは知らないが初めから売ろうとしないのだ。これでは見る側に「買おう」という気持ちがでてこないのも当然だ。

 先日、ある著名な写真家の方にお会いした際、「○○さんは写真展で写真を即売したりしていますか?」と聞いてみた。そこで私が想像し、求めていた返答は上記の通りで「日本では難しぃ〜ねぇ〜。買う文化がないから。表だって売ったことはないよ」とか「うん、欲しいって言う人がいたらね」という返答だった。しかし返ってきた答えは意外だった。
「私の写真なんて売れるワケがない!」って。しかも強い口調で。私はガッカリした。
 一つ断りを入れておくと、ドキュメンタリーや特殊な被写体の撮影ではグロテスクだったり、見るだけで気持ちが悪くなるものもあるのは確か。そういった写真は売れにくいだろう。
  しかし、その方の写真にはグロテスクなものなど無く、私だったら買ってもいいなと思う写真が沢山あったのだ。「これなんてきっと売れると思いますよ」と私が気に入った複数の写真を指すと「ダァ〜メ、ダメ!」と完全否定。私はそこで話を止めました。

 なんて事だろう。写真を買うか買わないかを決めるのは見る側の判断のはず。気に入った写真は売りたくない、などというのではなく、売れないだろうから売らないのである。これには正直に言ってショックだった。たとえ売れなくても決して恥ではないのだから。いや恥をかいたからなんだというのだろう。自分が自信を持っている作品のはずなのに。
 このように作者(売り手)の意識も問題なのだ。もし写真家(プロ・アマなど関係ありません)、写真関係者の方が見ていたら、ぜひ売るということをオープンに考えて欲しいと思います。作者が変わらなければ周りも変わりません。ましてやこれからデジタル時代をむかえて、ますます写真が単なる消費物として扱われやすくなるのですから。


・写真の保存性
 
さらなる問題として、写真の保存性がある。売ることを意識していたら当然であるはずなのだが、長期保管を想定した仕上げをしていない写真家が多いのだ。
  カラーの場合はラボに外注することが多いため、プリント作業レベルでの保存性の向上は作者には難しい。しかし、展示や販売の際にはアーカイバル用品を使用し、無酸性のマットを使うなどの配慮が欲しいところ。
 また、モノクロの処理では、数年保管しただけで褐色がかるような写真を人様に売る事なんてできない。個人で行うにはある程度の限界はありえるが、代替物質での乳剤保護(トーニングや保存用薬浴)などの気を使いたいところだ。

 こういった意味ではデジタルではまだまだ課題が多い。
 インクジェットプリンターでプリントしたものは、インクや用紙の影響で長期保存が難しいのだ。とはいえここ数年で数十年レベルまでは保存性が良くなり、UVカットガラスの額に入れるなどすればさらに保存性は良くなるなど、保存性は向上している。とはいえ銀塩プリントほどではない。
 対処法の一つとしては銀塩タイプの印画紙にプリントする方法だ。ラムダプリントなどがその一つ。これはプリントの紙が印画紙であるため、従来の銀塩写真と同じ保存性を持つとされているのだ。ただし、このプリントが可能なプリンターが高価なため、現時点ではプリント代が非常に高くなってしまう。

 私はデジタルカメラで撮った作品で何度か写真展を行っているが、インクジェット式のプリンターで出力していたため、「売ってください」とは言っていただいたが丁重にお断りした経験が何度もある。「いつ(短期間で)画質が変わるか分からないものでお金をいただくことができません」と。数名の方にはそう言ってプリントは無料で差し上げました。正直にいって嬉しい反面、悔しかったです (^^;
 そこで一度全てのプリントをラムダプリントで出力して展示し、今度は安心して買ってもらうことができました。しかし、今度はプリントコストの問題があって売値が高くなってしまい少ししか買ってはもらえませんでした。何しろプリントや額装代だけで1枚7万円になってしまうのですから。それでもたとえ少なくても買っていただけたのは嬉しい限りでした。

 ちょっと話はそれましたが、私が言いたいのは作者はその保存性も考慮する必要があると言うことです。このため、アメリカなどではプリント専門の職人や、保存用処理の専門の職人さんがいて、その方達の中にも有名な方がおられます。

・希少価値
 さらにさらに続きます。写真家がその作品を自分で秀作と思ったなら、作品が完成となったなら、販売するプリントにはシリアルとサインを必ず入れて欲しい。表の見える位置でなくてもいいから。
  サインは作者の証明であり、シリアルはその価値を持つ。単なる番記ではなく「3/100」といったようなトータルのプリント枚数を示すのも有効な方法。どんどん同一カットのプリントが出回れば、その全体としての価値は下がる。日本銀行が何も考えずどんどんお金を印刷したらインフレになります。それと同じです。またプリント枚数に達したら、絶対にプリントしないという覚悟も作者には必要になりますが。


 ダラダラと書きましたが、最後に、見る側も写真家もたとえ1000円からでもいいですから写真を買う・売ることをはじめましょう、と皆さんに言いたい。
  極低価格でも“買うもの”として扱われれば、自然に価値観もでてきて、そこに差が生まれ、また見る人の目も肥えていくでしょう。それが写真芸術文化を押し上げる事にもなると私は信じていますから。そして純粋なアーティストとしての写真家もたくさん育つと信じています。

 また見る側の方には買う買わないということだけでなく、気に入った写真があったらぜひ作者に声をかけて伝えてください。作者としては何より嬉しいことですから。


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